ベイズの定理
“証拠の精度だけで判断してはいけない——そもそもの稀さが答えを覆すことがある。”
数式
P(A|B) = P(B|A)·P(A) / P(B)読み方: 証拠Bを見た後のAの確率は、Aの事前確率にAのもとでBが起こる尤度をかけ、Bの全確率で割ったもの
- P(A|B)
- — Bを見た後のAの確率(事後確率)
- P(A)
- — 証拠を見る前のAの確率(事前確率)
- P(B|A)
- — Aが成り立つときに証拠Bが起こる尤度
- P(B)
- — 証拠Bが起こる全確率
きっかけ
99%の精度を持つ検査が陽性と出た——でも実際に病気である確率はわずか約17%。ベイズの定理がその理由を説明する。
やさしく言うと
ベイズの定理は、新しい証拠で信念を更新するルールです。Bを見る前のAの確率(事前確率)に、Aが成り立つときBが起こりやすい度合いをかけ、Bの全体の確率で割ると、Bを見た後のAの確率(事後確率)が得られます。
直感
鍵となる直感は「基準率」です。病気がとても稀(1%)なら、健康な99%の中でわずか5%が誤って陽性になるだけでも、本当の患者よりずっと多くの陽性者を生みます。だから陽性の大半は「健康なのに誤って陽性と判定された人」です。検査の精度だけでなく、そもそもその事象がどれだけ稀だったかにも注目しましょう。
どう作られるか
事後確率は3つの要素からできています——事前確率P(A)はあなたの最初の信念、尤度P(B|A)は証拠がどれだけ説得力を持つか、そして分母P(B)はあらゆる経路にわたる証拠の全体確率です。分母は通常P(B|A)P(A) + P(B|¬A)P(¬A)として展開され、「真陽性」と「偽陽性」の両方を数えます。
例
病気の有病率P(D)=1%、検査の感度P(+|D)=99%、偽陽性率P(+|健康)=5%とします。陽性が出たとき、本当に病気である確率は? P(+) = 0.99·0.01 + 0.05·0.99 = 0.0099 + 0.0495 = 0.0594。よってP(D|+) = 0.0099/0.0594 ≈ 0.167、約17%です。
よくある誤解
最大の落とし穴はP(A|B)とP(B|A)を混同すること(「検察官の誤謬」)です。「病気であるときに陽性が出る確率」と「陽性が出たときに病気である確率」はまったく別物です。この2つをつなぐ橋がベイズの定理であり、その橋には必ず事前確率が関わります。
どこで使うか
スパムフィルター、医療診断、法廷での証拠の重み付け、機械学習(ナイーブベイズ分類器)、検索とレコメンデーション、科学における仮説検定——不確かな証拠から信念を更新する場面ならどこでも使われます。
どこから来たか
このアイデアは18世紀の牧師トーマス・ベイズが死後に残したもので、ラプラスによって発展しました。長らく議論の的でしたが、今日では統計学と人工知能の中心的な枠組みとなっています。
前提概念
確認問題
とても稀な病気で、高精度な検査が陽性でも、実際に病気である確率が低いのはなぜですか?
- 検査が壊れているから
- 健康な人が圧倒的多数のため、多くの偽陽性が生まれるから✓
- 検査の感度が低いから
- 病気がよくあるものだから
練習
P(A)=0.5, P(B|A)=0.8, P(B|¬A)=0.4のとき、P(A|B)を求めなさい。
答え: 0.667
- P(B) = 0.5·0.8 + 0.5·0.4 = 0.4 + 0.2 = 0.6
- P(A|B) = 0.4 / 0.6 ≈ 0.667
ポイント: 分母はすべての経路にわたって証拠の確率を合計したもの。
有病率P(D)=0.01、感度P(+|D)=0.99、偽陽性P(+|健康)=0.05とします。陽性が出たときのP(D|+)を求めなさい。
答え: 0.167
- P(+) = 0.99·0.01 + 0.05·0.99 = 0.0099 + 0.0495 = 0.0594
- P(D|+) = 0.0099 / 0.0594 ≈ 0.167
ポイント: 稀な病気なら陽性が出ても確率は低いまま——基準率の力。
工場1は電球の60%を製造(不良率2%)、工場2は40%を製造(不良率5%)します。不良品が工場1由来である確率を求めなさい。
答え: 0.375
- P(不良品) = 0.6·0.02 + 0.4·0.05 = 0.012 + 0.02 = 0.032
- P(工場1 | 不良品) = 0.012 / 0.032 = 0.375
ポイント: 逆確率は各経路の寄与を比べるだけ。
友人が「検査の精度は95%だから、陽性なら病気である確率は95%だ」と言いました。これがなぜ誤りか、ノートに説明しなさい。
答え: undefined
- P(陽性|病気)とP(病気|陽性)を混同している
- 事前確率(有病率)を無視している——病気が稀なら答えは大きく下がる
- ベイズの定理はこの2つの条件付き確率をつなぐ橋であり、事前確率が必要
ポイント: 精度は事後確率ではない——事前確率なしには答えられない。