マルコフ連鎖
“マルコフ連鎖とは記憶のない動き——「今どこにいるか」さえわかれば次が決まる。”
数式
P(Xₙ₊₁ | X₀…Xₙ) = P(Xₙ₊₁ | Xₙ); πP = π読み方: 次にどこへ行くかは「今どこにいるか」だけで決まり、そこに至るまでの過去の経路には左右されない
- Xₙ
- — ステップnにおける状態(位置)
- P
- — 遷移行列——各状態から次の状態へ移る確率をまとめた表
- π
- — 定常分布——長期的に各状態にいる時間の割合
きっかけ
未来を予測するのに過去すべては要りません——マルコフ連鎖は「今どこにいるか」さえわかれば十分な、記憶を持たない世界です。
やさしく言うと
状態の間をランダムに渡り歩く過程で、次の状態の確率が現在の状態だけで決まり、そこに至った経路にはまったく左右されないもの。この「記憶のなさ」がマルコフ性です。
直感
ボードゲームの駒を思い浮かべてください——次のマスは今いるマスとサイコロの目で決まり、どうやってそこに来たかは関係ありません。天気予報は典型例です。「今日が晴れか雨か」さえわかれば明日の確率が決まり、先週のことは忘れてよいのです。各状態から次の状態へ移る確率を表(遷移行列)に書けば、システム全体が定まります。
どう作られるか
鍵となる道具は遷移行列Pです——各行が「現在の状態」を表し、その成分は次の状態へ移る確率なので、各行の合計は1になります。現在の分布にPを掛けると1ステップ後の分布が得られます。これを十分繰り返すと、もう変化しない定常分布πに落ち着き、πP = πを解くことで求められます。
例
天気:晴れ→晴れ0.8、晴れ→雨0.2、雨→晴れ0.6、雨→雨0.4、つまりP=[[0.8,0.2],[0.6,0.4]]。定常π=(s,r)がs+r=1のもとでπP=πを満たすには:s=0.8s+0.6r → 0.2s=0.6r → s=3r。s+r=1と合わせて:r=0.25, s=0.75。長期的には晴れの日が75%、雨の日が25%になります。
よくある誤解
「記憶がない」とは「過去が結果に影響しない」という意味ではありません——過去はすでに現在の状態の中に要約されています。ただ、現在さえわかれば、それ以前の詳細は新たな情報を加えないというだけです。
どこで使うか
GoogleのPageRank(ウェブ閲覧をマルコフ連鎖とみなす)、音声やテキストの予測、金融における信用格付けの遷移、遺伝子配列の解析、強化学習における状態遷移——次のステップが現在の状態だけから確率的に決まるあらゆる場面で使われます。
どこから来たか
1906年、アンドレイ・マルコフは独立性を仮定しなくても大数の法則が成り立つかを探る中でこれを導入しました。彼はロシアの詩(プーシキン)の文字の連鎖を具体例として分析しました。
前提概念
確認問題
マルコフ連鎖において、次の状態の確率は何に依存しますか?
- 訪れたすべての過去の状態
- 現在の状態のみ✓
- 最初の出発状態のみ
- 何にも依存しない
練習
今日は晴れで、P(晴れ→雨) = 0.3です。マルコフ連鎖において、明日雨になる確率は?
答え: 0.3
- 次の状態は現在の状態(今日=晴れ)だけで決まる
- 晴れ→雨の確率はそのまま0.3
ポイント: 1ステップの予測は、現在の状態からの遷移確率をそのまま読み取るだけ。
遷移行列P=[[0.5,0.5],[0.5,0.5]]について、定常分布における状態Aの割合を求めなさい。
答え: 0.5
- どの状態からも次はA 0.5、B 0.5
- 完全に対称なので定常分布は(0.5, 0.5)
- 状態Aの割合 = 0.5
ポイント: 対称な遷移行列は一様な定常分布になる——それぞれ0.5。
P=[[0.8,0.2],[0.6,0.4]]について、定常分布における状態1(晴れ)の長期的な割合sを求めなさい。
答え: 0.75
- πP=πより:s = 0.8s + 0.6r
- 0.2s = 0.6r → s = 3r
- s + r = 1 → 3r + r = 1 → r = 0.25, s = 0.75
ポイント: πP=πと合計=1という2つの式を組み合わせて定常分布を求める。
「マルコフ連鎖は記憶を持たない」ことと「過去に意味がない」ことがなぜ違うのか、ノートに説明しなさい。
答え: undefined
- 次の確率は現在の状態だけを与えれば決まる(記憶のなさ)
- しかしその現在の状態自体は過去によって作られたもの
- つまり過去はすでに「今」という要約に織り込まれている——現在がわかれば、それ以前の詳細は冗長になる
ポイント: 記憶のなさ=「現在が過去の十分な要約である」ということ——過去に意味がないわけではない。